ニューヨーク育ち、父母の離婚で米海軍大将の祖父に厳しく育てられた青年・ローレンス・クラーク。恋人のジェニファー・テーラーに告白しようとしたところ、日本びいきの彼女は「プロポーズの前に、日本を見てきてほしい。ひとりでゆっくりと」という。
成田に降り立った瞬間から、見るのと聞くとは大違い。「日本はハワイの先にあるのではなく、固有の文明を持つ遥かな異国だった」と、カルチャーショックを受けるとともに、父母と離れて育った人生をも振り返り思考する時間をもつ。現在急増しているインバウンドの日本再発見小説ともなっている。東京、京都、大阪、別府、そして銀座から丹頂鶴の舞う釧路へ・・・・・・。
アメリカ人のいう「ネバー・ルック・バック ゴー・アヘッド(けっして振り返るな、前へ進め)」。しかし祖父はいう。「ブリッジに立っていても、船がまっすぐ進んでいるかどうかはわからない。常に航跡を振り返れ」と。そして、彼がなぜ日本に共感するのか。心奥に日本の社会と文化の共鳴盤をもつ出生の秘密にたどりつく。そして絶滅寸前であった丹頂鶴を100年間にわたって育て続けてきた善行の背後に「自然は目に見える神だということ。施すのではなく、仕えるのだということ。過不足のない平等、それこそが真実の愛」という依正不二の生命観の世界があることを静かに示す。