onnanoinai.jpg村上春樹の短編小説6編。いずれも「女のいない男」「いろんな事情で女性に去られてしまった(去られようとしている)男たち」を描く。「ドライブ・マイ・カー」は映画化されて、カンヌ国際映画祭、アカデミー賞など数々の受賞をした原作でもあり、どう映像となるかも興味深い。

「ドライブ・マイ・カー」――。舞台俳優・家福は突然、美しい妻を子宮癌で失い喪失感に苛まれ続ける。愛し合っていた二人だが、妻はなぜか他の男と関係を結んでいた。専属ドライバーになった寡黙な若い女性・渡利みさきと少しずつ内面の話をするようになる。「僕らはみんな同じような盲点を抱えて生きているんです」「家福さん。考えてどうなるものでもありません。私の父が私たちを捨てていったのも、母親が私をとことん痛めつけたのも、みんな病がやったことです。頭で考えても仕方ありません」・・・・・・

「イエスタデイ」――。田園調布出身なのにコテコテの関西弁をしゃべる浪人中の木樽と、芦屋出身で一切関西弁をしゃべらない大学生の谷村。木樽はなんと自分の彼女の栗谷えりかを「おまえ、こいつと個人的につきおうてくれへんかな?」と驚くべきことを言う。「独立器官」――。52歳になるまで約30年、常に複数の「ガールフレンド」を持っていた独身の医師・渡会。思いもよらず深い恋に落ちてしまった。「逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり」(権中納言敦忠)のような、さよならの後に感ずる喪失感や息苦しさを感じるのだった。そして「私とはいったいなにものだろう」と・・・・・・。食べ物が喉を通らなくなり命を落とすのだが、渡会は「すべての女性には、嘘をつくための特別な独立器官のようなものが生まれつき具わっている」と意味深長なことを言っていたことを想い起こす。

「シェエラザード」――。北関東の地方小都市の「ハウス」に送られた羽原のところに、週2回のペースで「連絡係」の女性が訪れる。交わった後彼女は「千夜一夜物語」の王妃シェエラザードと同じように興味深い話をしてくれる。「シェエラザード」と名付けられた彼女は、17歳の高校2年の時、同じクラスの男の子に恋をして、「私は定期的に彼の家に空き巣に入らないではいられないようになった」ことを打ち明けるのだった。「木野」――。妻に男ができて離婚、小さな喫茶店「木野」を開いた男・木野。そこを訪れるカミタという男、体に火傷を負う女、猫、そして蛇。「彼をほのめかしの深い迷宮に誘い込もうとするかのように、どこまでも規則正しく。こんこん、こんこん、そしてまたこんこん。目を背けず、私をまっすぐ見なさい、誰かが耳元でそう囁いた。これがおまえの心の姿なんだから」・・・・・・。成熟した男女の心のひだと深層、色彩のない景色と長雨、それを絶妙のセンスとメロディーとリズムで描く。

「女のいない男たち」――。夜中の1時過ぎに低い声の男から「妻が先週自殺した」と電話がある。なぜ、長い間彼女に会ってもいない自分に知らせてきたのだろう。結婚したことも、どこに住んでいるかも知らない自分に。「女のいない男たちになるのはとても簡単なことだ。一人の女性を深く愛し、それから彼女がどこかに去ってしまえばいいのだ」「女のいない男たちになるのがどれくらい切ないことなのか、痛むことなのか、それは女のいない男たちにしか理解できない。素敵な西風を失うこと」・・・・・・。一人の女性を失うことは、すべての女性を失うことでもあり、仕切りのない広々とした音楽、色彩や奥行きのある世界を失うことでもある。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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