利休の闇.jpg

秀吉と利休――何が亀裂をもたらし、何が切腹という結末をもたらしたのか。興味の尽きないテーマで、多くの人が、分析し、論述している。


「信長の棺」の加藤廣さんは「出会い」「蜜月」「亀裂」「対立」「終幕」を本書で著わしている。ドラマティックとか、ミステリアスではなく、淡々と描いているがゆえに逆に、大変面白かった。私は利休という名自体に興味を持ち続けているが、宗易から「利休」への改名の理由、背景、タイミングが描かれ、黄金の茶室のもつ意味も、秀吉の単なる低俗な悪趣味でないことが、解き明かされる。当時の「茶」会、茶道がいかなる時代背景の中で生まれ、使われ、確立されてきたか――単なる伝統文化だけでないのは確かだ。


ベトナムの素顔.jpg

ベトナム大使であった坂場さんの見たベトナム――。「世界一親日の国」「南方稲作民族・楽観主義のベトナム人」「深化する日越戦略的パートナーシップ」「ASEAN共同体の構築を主導するベトナム」「ベトナムの開発と日本のODA」「重要性を増す政治・安全保障対話」・・・・・・。丁寧に、しっかりと、63省市の現場を全て回って対話を重ね、仕事をしてきただけに説得力がある。


今年1月3、4日と私はノイバイ国際空港第二ターミナルとホン河を渡る長大なニャッタン橋(日越友好橋)の竣工式に出席、大歓迎を受けた。起工式の時が坂場大使。ベトナムは激しく動いている。前進している。日本にとってとても大切な国だ。


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主税局長、国税庁長官を務められた大武健一郎さんが、ベトナム等の簿記普及活動のボランティアに携わっていることは有名だ。そのなかでこの4年、毎日新聞に「経済観測」を連載してきたものも含めて書き下ろしたのが本書だ。


これからの日本にとって、人口が増え、中所得者が増えるASEANとの連携が重要だが、そのなかで、日本に1番親近感を持つベトナムと連携することが大切だ。ベトナムの歴史はほとんど戦争に明け暮れた。中国との戦いは長いが、仏とも米とも戦った。苦難のなかで生き抜いた知恵が蓄積されている、と大武さんは考える。一方、他国との戦いがほとんどなかった日本には、比類なき文明・文化が蓄積されてきた。日本の近代化もこの蓄積された知恵があってのことであり、それは今後、さらに輝きを増すはずだ。だからこそ、両国は互いの知恵を前に向かって連携・協働化すべきだ。そう主張する。「ベトナムは日本のASEAN進出の窓口」であり、「日本とベトナムの未来」に向けて、その「魅力と課題」を知り、共に発展すべきだ――。現場を踏まえて鋭い感性で多くの提言をしている。


機龍警察火宅.jpg

月村了衛さんの短篇集。火宅、焼相、輪廻、済度、雪娘、沙弥、勤行、化生が収録されている。警視庁に新設された特捜部SIPDは、「龍機兵」と呼ばれる最新鋭の装備を持つ突入要員の他に、刑事部、公安部などの既存の部署に属さない専従捜査員を擁している。トップダウンで創設されたがゆえに他からの反発もある。


「悪の顕われたる者は禍い浅くして、隠れたる者は禍い深し」(洪自誠「菜根譚」)、そして短篇の表題が仏教用語にあるように、対象とする犯罪は深山幽谷を思わす深い闇の中にある。


「よく聞き、よく見ろ。捜査はそれに尽きるんだ。どんなときでも耳と目をよく使え。頭は放っておいても耳と目についてくる」――由起谷志郎主任が元上司に教えられた捜査の基本。「機龍警察」の登場人物の過去や至る過程にもふれている。ハードボイルド警察小説。


虫から始まる文明論.jpg

驚嘆すべき本だ。きわめて易しく、目の前がパッと開ける面白い本だが、その思考は、虫の世界から世界各地へ及び、日本の文明から世界の文明へ、日本文化から欧米文化へ及び、微小の生命空間は宇宙生命空間へと広がる。


私も思えば子供の頃、春はつくしんぼを採り、野イチゴを摘み、夏休みは昆虫採集、川で魚をとった。近所の仲間といつも広場で遊んだ。生活は季節のなかに、自然とともにあった。奥本さんは、それが大事なのだ。日本人はそうして小さなものを細かく見る眼、いわば接写レンズの眼を磨いてきたのだという。


「第一部 虫の世界」「第二部 人の世界」を通じ、次から次へと風土と人間と文化(あるいは宗教)が開示され、展開する。ヴェルレーヌ作の詩「落葉」(上田敏訳)について、穏やかで晴天が多く、そぞろに寂しくもある日本の秋と、フランスの厳しい冬を前にしたつかの間の重苦しい凄絶ともいえる秋の違いを示す。虫や自然、詩や絵画を例示しつつ、「日本に風景画はあったのか」「ルイ・ヴィトンはなぜ日本でよく売れるか」などで結ぶ。面白くて心が躍った。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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