二百余年続いた(前)漢王朝が乱れ、簒奪した王莽の改革も失敗、反乱が全土に及んだ一世紀初頭。光武帝劉秀は天下平定・後漢王朝建国事業を進める。その劉秀の下で最も信頼を得た名将・呉漢を描く。
天下平定は言語絶する茨の道。制したと思えば、また反乱。広大な中国の混乱を収拾する道は、河北から始まり最後の蜀の公孫述を破り平定するまで、長い歳月を要した。謹厚で温柔な人物といわれる劉秀が、寛大で"赦す人""温情の人"であるとともに、教養と武略をも兼ね備えていたことがわかる。そして、「志とは、雲に梯子をかけてのぼること」と教えられた呉漢だが、"平凡""忠誠"に徹し、祇登、角斗、況巴、魏祥、左頭、樊回、郵解、郵周、呉翕ら、智慧袋、軍師、謀臣、軍吏、謁者らに恵まれ、その結束は固い。
宮城谷昌光氏の小説には「人間学」がある。そこが魅力であり、面白さだ。民は苦悶し、賊は跳梁するなかでの「天」の下での平定・建国。「民の憂い募りて国滅ぶ」「民の欲する所 天必ず之に従う」を思う。