軍靴の足音が次第に響く昭和の初期・中期。佐倉波津子は進学もできず劣等感をもちつつ、「乙女の友」編集部で働き始める。波津子のひたむきさ、懸命さ、体当たりをしてしまう余裕のなさは際立ち、社内に波風を立てながらも前に進む。本をつくるのは大変な仕事だが、主筆・有賀憲一郎、画家・長谷川純司、有賀の従姉妹の佐藤史絵里、翻訳詩人の露島美蘭‥‥‥。周りは暖かい。
昭和12年、15年、18年、そして20年――。波津子は純粋、一生懸命。やがて小説も書き、主筆にも抜擢されるが、いつも「私なんか‥‥」と思う。「こうした時代だからこそ、美や芸術、音楽や文芸の香りを届け、少女たちの心身を健やかに育むことは大事だ。しかしその任に自分が当たることが適切なのだろうか」と、悩みながらも前へ進む波津子。戦争は学徒出陣、有賀主筆らの召集、東京大空襲と、仕事も生活も友も奪っていく。「君はそのときどきで、常に最上と思われる道を選んで、いつまでも元気に、幸せに暮らしていくんだ」「友よ、最上のものを」という有賀の気持ちが波津子の心に甘く響く。
実業之日本社の少女雑誌「少女の友」の存在に心を動かされた伊吹有喜さんが大和之興業社「乙女の友」として描いたという感動作。