杉村三郎シリーズの第5作。「誰か」「名もなき毒」「ペテロの葬列」「希望荘」に次ぐもの。東京・北区で私立探偵事務所を設立した杉村が、"困った女たち"の難題を解決する。ごくありふれた日常のなかに、人を困らせ、難題を突きつける者がおり、ついには事件として暴発する。杉村三郎が淡々と丁寧に取り組んでいく。「絶対零度」「華燭」「昨日がなければ明日もない」の3話。
「絶対零度」――。久し振りの依頼人は50代後半の筥崎静子。2年前に結婚した娘・優美が自殺未遂をして入院したというが、面会も拒否され、メールも1か月以上も繋がらないという。杉村が調べると、あまりにも残酷な事実が明らかになってくる。人間の温もりが消えた「絶対零度」の復讐。
「華燭」――。同じ日に同じホテルの同フロアで華燭の典に臨む二人の花嫁が、片や直前で逃亡、片や花婿側に元カノが駆け込んで大混乱、破談となる。親の代からの確執、因果応報を思わせながら、思いもよらぬ謎が明かされていく。
「昨日がなければ明日もない」――。親兄弟・家族にも周りにも迷惑をかけ続ける今はシングルマザーの朽田美姫。16歳で長女・漣を産み、別の男性との間に6歳の長男・竜聖がいる。竜聖が事故に遭い、杉村は美姫から「子供の命がかかっている」との相談を受けるが・・・・・・。
今の社会の日常――こじれにこじれた人間関係から生ずる事件を描き切る力は見事だ。