椿宿の辺り.jpg山幸彦という不可思議な名をもつ佐田山幸彦は化粧品メーカー直属の研究員。常に"痛み"に襲われて苦悩する。腰痛持ち、頭痛持ち、40肩(30代なのに)、鬱病。ところが従妹の女性・海幸比子(通称海子)も同様の"痛み"で苦しんでいた。この変な名前は祖父の画策で、「山幸彦」「海幸彦」の神話に基づいていた。そこに実家の店子・鮫島氏から手紙が来て、その長男が宙幸彦と知って仰天する。一族に降りかかる理不尽な"痛み"の根源を訪ねて祖先の地・椿宿に向かう。

「痛みというアラームが体に鳴り響くと、自分という大地を構成する地層の奥深くにある何かが、今にも大きく揺らいで、大げさに言うと、存在の基盤のようなものが崩れ落ちそうになる。"痛み"が昔馴染みの"不安"を強烈に覚醒させ、活性化するからだと思っている。まことに厄介なことだ」・・・・・・。椿宿の実家には、江戸時代、藩の凄まじい惨劇があり、さらに昔には網掛山からの火砕流、大地震で生まれた天然ダム湖の決壊、山体崩壊の大災害があり、今も「治水」が大テーマになっていることを知る。滑落する山、滑り落ちていく神社を知り、「私の幼い頃からの不安の根源がここに、この滑り落ちていく、という感覚そのものにあったのだ」と"不安の核心"に触れたような気になる。自然・災害とどう折り合うか、先祖代々受け継がれる自然との共生のなかに生じる生命、人間の体と心と自然と営みの歴史、そのなかで生まれる神話と宗教、"痛み"と鍼と経絡・・・・・・。「痛みが終わった時点で自分の本当の人生が始まり、有意義なことができるのだと思っていたが、実は痛みに耐えている、そのときこそが、人生そのものだったのだと思うようになりました。痛みとは生きる手ごたえそのもの、人生そのものに、向かい合っていたのだと」「先祖から・・・・・・負の遺産として引き継がれたものだとしても、それはミッションで、引き受けるよりほか、道はない」――。あまり出会ったことがない不思議な哲学的小説。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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