舞台はサハリン島、樺太。時代は明治初期から1945年8月、昭和の戦争。もとは無主の島であったサハリン島。やがて帝政ロシアと日本が共同で領有。その後、ロシアの単独領有となり、日露戦争で島の真ん中、北緯50度以南が日本へ割譲されていた。ロシアと日本のあわいで揺らぎ続けた島に、樺太アイヌ等の先住民がいた。
樺太出身のアイヌ、幼少時に北海道に移住していたヤヨマネクフ(山辺安之助)、同じ年のシシラトカ(花守信吉)、幼なじみの千徳太郎治・・・・・・。ロシア皇帝暗殺を謀った罪でサハリンに流刑されていたポーランド・リトアニアのブロニスワフ・ピウスツキは、テロ組織の残党でサハリンに住む民族学者レフ・シュテンベルグやロシアのアイヌ民族調査のため北海道を訪れるヴァツワフ・コヴァルスキらと交わり、アイヌの民族調査の道に入る。そしてブロニスワフは、アイヌの女性と結婚をする。
大激動する世界、国内の動乱。挟撃されるポーランド、日露戦争、文明の猛威のなか、凍てつく島で異民族が交差する。その国難のなかで生きる熱を与えたものは何か。文明が進歩の名の下に弱小民族を押し潰す。民族の幸せとは何か。弱肉強食のなかで国家は、なかでも人間は何をもって生きるのか。アイヌ民族を中心にしながら文明の理不尽、国家主義になだれる人間の愚かさを剔り出しつつ、人間の生存と生活の根源的な問いを発する。
私も関わった今年4月に本格オープンする「民族共生の象徴空間」――。白老町のアイヌ民族博物館には、ブロニスワフ・ピウスツキの銅像がある。本書には、二葉亭四迷、アイヌ語研究の金田一京助、南極探検隊の白瀬矗らとの交わりも描かれる。生きる「熱源」「誇り」が"受動の力"として骨太に伝わってくる。