尊 き人生とは師弟に生きること。師の心と弟子の誓い。宇宙のなかで、自然のなかで、市井に生きる尊さと創造すべき価値。世界中に三千万本の木を植えた作中に 出てくるモデル・横浜国大宮脇昭先生に対する師の言葉「見よ、この大地を! 39億年の地球の生命の歴史と巨大な太陽のエネルギーの下での生命のドラマが目の前にある。まず現場に出て、目で見て、匂いを嗅いで、舐めて触って調べ ろ! 現代人には二つのタイプがある。見えるものしか見ないタイプと、見えないものを見ようと努力するタイプだ。きみは後者だ。現場が発しているかすかな情報か ら見えない全体を読み取りなさい」――。主人公の青年・坪木仁志は、佐伯平蔵からこの言葉を送られる。
そして佐伯老人はこうも言う。「人を見る尺度は30年だと、ある人がぼくに言った。・・・・・・無論、人生には何が起きるかわからない。・・・・・・しか
し、そんなことは恐れるな。30年後の自分を見せてやると決めろ。きみのいまのきれいな心を30年間磨きつづけろ。働いて働いて働き抜け。叱られて叱られ
て叱られつづけろ」と。京都の陶磁器店の主人は「きみがぼくの本物の弟子かどうかは、30年たたないとわからないが、その30年間を、きみはただまっしぐ
らに歩き通せるか。30年間、ひたすらこの師匠につかえることができるか」と言う。柔道における師弟のなかで、「終わりのない修業、訓練、稽
古・・・・・・」が描かれる。「自分で考えてつかんだもの。自分で体験したもの。それ以外は現場では役立たない。・・・・・・場数を踏め。動け。口を動か
すのは体を動かしてからにしろ。数をこなせ。そうすれば、自然に体で覚えていく。体で覚えたものは何にでも応用がきく」とも――。
最後に、小説では珍しく「あとがき」がある。宮本さんの思いだと思うが、本書は人生、哲学そのものの小説だ。
最後に、小説では珍しく「あとがき」がある。宮本さんの思いだと思うが、本書は人生、哲学そのものの小説だ。