
「国民に媚びることなく、国家を真の独立へと導こうとした岸信介。彼が思い描いた理想に、この国はまだ遠い」と本書は結ばれている。昭和2年3月の昭和恐慌(岸31歳)から昭和30年の保守合同(自由民主党結成)(岸59歳)、そして60年安保改定。まさに激動の日本。北さんは岸が戦い続けた吉田茂を「吉田茂 ポピュリズムに背を向けて」の名著を出しているが、国を背負った「自ら反(かえ)りみて縮(なお)くんば、千万人といえども吾往かん(孟子)」を貫いた叛骨の宰相として岸信介を描いている。そして「歴代総理のなかで、辞任後もっとも評価が高くなったのは岸信介ではあるまいか」という。あの昭和の戦争、そして占領下の日本、そして保守合同への"自民党戦国史"――そのなかで、日本を背負うとはどういうことか。保守政治とは何か。そのなかで突き上げる情念とは何かを、描き出してくれている。