
「ドキュメント戦争広告代理店――情報操作とボスニア紛争」(講談社)を取り出してみると、2002年、12年も前の刊行だ。衝撃的だったことを今も記憶している。その高木徹さんが、ニュースが瞬時に全世界の情報空間をかけめぐるなかで、イメージづくりの激烈な国際メディア情報戦の実態を示したのが本書だ。
「セルビア共和国のミロシェビッチ大統領は、いかにして国際的大悪人となったか――ジム・ハーフとボスニア紛争」「予想外の大混戦となった米大統領選挙の第二回テレビ討論会――窮地のオバマは、どのようにピンチを切り抜けたか」「ビンラディンとは、国際メディア情報戦を最大の武器としたテロリストだった」「ビンラディン殺害作戦の現場中継映像を見る閣僚たち――オバマ政権はなぜ写真を公開したのか」「さまようビンラディンの亡霊――ボストンマラソン・テロ事件など次世代のアルカイダ」「2020年東京五輪決定とPR戦略――東京は現金を落としてもかえってくる、とび抜けて安全で平和な国・日本」「PR会社と広告代理店の違い」・・・・・・。
三つのキーワード、基本的テクニックとして「サウンドバイト(発言の短い断片)」「バズワード」「サダマイズ(敵の極悪人化)」が詳説される。映像だけではない。今はインターネットの世界だ。そして情報戦とは、情報機関が水面下で暗躍して秘密情報をいかに取るか、ではない。重要な情報をいかに外部に発信するか、武器とするか。「出す」情報戦の勝負となっていることに日本人は気付け。そして、民主主義、自由、人権、人道、差別との訣別、透明性を点検し磨き上げ、安全な日本という「資産」を育めと指摘する。それは、「現代の国際政治のリアリティは、(自分たちの方が敵よりも倫理的に勝っている)自らの倫理的優位性をメガメディアを通じて世界に広めた者が勝つという世界」だからだ。