日中戦争の最中の1938年。当代きっての流行探偵作家の小柳逸馬は、従軍作家として北京に派遣されていたが、検閲班長の川津中尉とともに、前線である万里の長城への移動を命ぜられる。その張飛嶺で待ち受けていたのは、第一分隊10名が全員死亡するという事件だった。
二人は、事件解明に直ちに着手し、関係者を聴聞する。「匪賊からの襲撃か」「分隊内での恨みつらみ、内輪揉めか」・・・・・・。そこには軍人のかかえる嘘と体裁、規律のゆるみ、親を殺され妻を辱められ焼き尽くされた中国人の憎悪があった。そしてたどり着いたのは「そもそもこの戦争には、大義がないのではないか」「戦いながら大義を探しているのではないか」「要するに日本は、わけのわからない、戦いの理由がわからない戦争をしている。そんな戦争の中で日本軍は軍隊としての正体をなくし、謀略がすっかり習い性になってしまった」という根源的なやり切れない闇だ。その闇と嘘の隠蔽の重ね役として、小柳は従軍作家として派遣されたことを悲しみのなかで思うのだ。感情を押し殺して・・・・・・。