2018年の今年は、シュペングラーの「西洋の没落」が出てちょうど100年。「西洋の没落」は単線的進歩史観を切る。ゲーテがファウストで示した限界を超えて永遠、無限空間に向かおうとする西洋文化の魂が、18世紀に頂点を示して19世紀、20世紀と没落し、21世紀には西洋文化は末期症状を迎えると予言した。本書はそれを読み解き、現代の世界が直面している諸問題を剔抉する。すさまじい知の力業だ。
シュペングラーの予言は根源的で、驚くほど現代を照射する。そして、本書は「現代を照射している」とだけ言っているのではなく、「政治のポピュリズム」も「金融」「技術」の問題も、通説に流れて問題設定自体ができていないことを鋭角的に指摘する。ベルクソンの「問題は正しく提起された時、それ自体が解決である」ということであり、「リベラリズム」の軽薄さをも暴く。
「経済成長の終焉、アジアの台頭」「グローバル・シティの出現、地方の衰退そして少子化」「"ポスト・トゥルース"の政治とポピュリズム」「リベラリズムの破綻」「人間と技術――機械の支配と技術の拡散、際限なき人間の欲望」「金融の支配、貨幣の独裁」「貨幣と財政――"商品貨幣論と信用貨幣論"から見る財政問題」「予言の方法――西洋中心の進歩史観を破壊した転回の基軸はゲーテの『人間精神の形態学』」「覚悟存在(知性)と現存在(生命全体)の相克が繰り広げる栄枯盛衰のリズム」――。
さて今の日本。上記の通り、いずれからも日本(先進諸国も)は逃れられず、西洋の没落の運命に巻き込まれている。「没落の運命を受け入れざるを得ない時が来たようだ。ただし、それは悲観や諦念に陥るということではない。シュペングラーのように、徹底して懐疑し、執拗に批判する能力と精神力を身につけるということである」という。没落する世界を直視し、生き抜こうとする猛き覚悟ということだ。