二歳の次男・遼を脳腫瘍で失い、そのことも因となって離婚、実家のある宮崎に長男・悠人とともに帰った里枝。ほどなく「谷口大祐」と再婚して、幸せな家庭を築いていた。ところがわずか3年9か月、物静かで優しい大祐が事故で死亡してしまう。しばらくしてその死を群馬・伊香保の兄・谷口恭一に伝えたところ、写真を見た兄からは「これは大祐ではない。全然別人」との衝撃的な事実を告げられる。里枝からこの「ある男」について相談を受けた弁護士の城戸章良は、真相に迫ろうと動く。
身許を隠さねばならない人間の境遇。無戸籍、戸籍交換。出自の業苦、そしてネット等に顕著な「なりすまし」・・・・・・。残酷な宿命を乗り越える家族の愛。心の奥底に迫るキメ細かな品のある文章が、何とも優しく浸み込んでくる。あの3年9か月がいかに幸福であったか、ずっと心に残る。