平成が始まった日、1989年1月8日に生まれ、人気者の文化人としてメディアにも登場する「平成くん」。恋人の「愛」は、平成くんから平成の終わりとともに安楽死を考えていると打ち明けられ動揺する。出てくる場面や人は現実、安楽死の法律等をめぐっては虚――虚実の交差する展開に戸惑うが、「そこそこ幸せだが、存在に大きな不安」という平成の心象風景そのものがバックコーラスのように流れる。
合理的、機械的。AI・IoTの浸透、所有から利用へのシェアリングエコノミー等々、社会は急展開する。どうなるかと心配を抱えながら読み進み、人間味の匂いに半分ホッとしたりもする。その曖昧な交錯が平成末なのだろうか。時代の空気はそう流れているだろうが、それは生命力衰弱の時代であり、哲学不在の時代といえるし、"安楽死問題"というより"自殺の問題"だと思える。新しい時代は、それを脱したいものだ。