ふたりぐらし.jpg時代に取り残された映写技師の信好。ほとんど稼ぎはなく、脚本や評論も書くが採用されない。妻の紗弓が病院の看護師として働いて生計を支えている。互いを思いやる心、優しさ、静かな生活――。喧騒とはほど遠い、愛に包まれた静謐な時間がゆっくり流れ、二人の結び付きをより強くしていく。日常には、疑心も湧くし、無味無臭の嫉妬心や嘘、相手を覗く好奇心や罪悪感もあるが、それを整理し、小さくも乗り越えを繰り返すなかで「幸せ」を噛みしめていく。丁寧な筆致は絶妙で心持よい。

夫婦でなくてもいいが、人生はまず二人から形づくられるのではないかと思う。自他不二、心如工絵師、互いを思う優しさ。紗弓はズケズケと言い過ぎる母との確執をもち続けるが、教養と包容力をもつ父親に包み込まれる。この夫婦にも違う形の信頼と安心感がある。隣の泉タキ夫婦、信好がその下で働くこととなった岡田国男と結婚相手・大村百合、信好と母・テル・・・・・・。それぞれの二人の愛と信頼の形が挿入される。

「あなたいいひとだな」「ごめん、どうしても好き」「年を取れば、どんな諍いも娯楽になっちゃうんだから」――。二人を生きる、極めつきといえよう。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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