湊かなえワールドを実感させる力作。立石力輝斗が高校3年の妹・沙良を刺殺し、火を放って両親を焼死させた「笹塚町一家殺害事件」。ミュンヘン国際映画祭で特別賞を受章したばかりの気鋭の映画監督・長谷部香は、この事件を手がけようとし、新人脚本家の甲斐千尋に脚本製作を持ちかける。笹塚町は、千尋の生まれ故郷。この事件をめぐっての隠されていた事実の連鎖が始まる。
「長谷部香の母親は、なぜ虐待まがいの教育に熱心だったのか」「香の父親はなぜ自殺したのか」「引きこもりの立石力輝斗はなぜ殺人を犯したのか」「妹・沙良はどういう人物だったのか。人を壊滅させる攻撃的虚言癖は真実なのか」「甲斐千尋の姉・千穂はフランスでピアノを学んでいるというが、その真実は」・・・・・・。そもそも「この事件を映画にしたいという長谷部香の意図は何か」・・・・・・。
各家族が背負う宿業。不思議な縁と結び付き。そこには法廷での判決・筋書きとは別の生々しい人間の感情が噴出する宿命的ドラマがある。"真実"を知ること、"知ること"と"救い""受容"、それを表現するのは何の為か、どういう意味があるのか。午前の太陽ではなく、落日の輝きに心惹かれるときがあるのはいったい何故なのか・・・・・・。1行1行に緊迫が漲る。