最新の心臓手術の最中に起きた前代未聞の殺人事件を描いた「チーム・バチスタの栄光」。それから13年ぶりに海堂尊が続編として出したのがこの「氷獄」。「バチスタ・スキャンダル」の裁判がいよいよ始まったという設定だ。
「バチスタ・スキャンダル」から2年。被疑者・氷室は黙秘を続け、弁護をも拒み続ける。しかも「保身の願望もない」と言うのだ。死刑に持ち込みたい検察もこれに手こずり、起訴の基本方針も決められないでいた。そこに国選弁護士として新人弁護士・日高正義が名乗りをあげる。しかし、意気込んで東京拘置所に行った日高に対して、氷室は「保身の願望もない」「ここは氷の牢獄。何をしても凍えるだけ」と虚無的態度に取り付く島がない。諦めない日高は、「チーム・バチスタの栄光」の田口医師やインテリ・ヤクザ、イヤミの白鳥技官らの話を聞き、ある提案を持ち掛ける。そして2人は、氷室の"死刑"と引き換えにしたそれぞれの闘いを始めるのだ。
日高正義の名前にもあるとおり、テーマは「医療と司法の正義を問う」だ。難しい生死の境に立つ医療現場、有罪率99.9%の検察司法の難しさと歪み――そうしたなかでの正義とは何か、医療過誤に苦しむ患者と医師の双方を助けるにはどうしたらいいのか。「『正義』とはできるだけ小さく使う方がよい。大きく使おうとすればするほど、か弱き人々を傷つける」「私が医師のミスを徹底的に叩くシステムを作った結果、誠実な医師のミスを糾弾し、潰してしまうことになった。だが今回、そんな医師を救えて、酷いシステムを手直しすることもできた」「『小さき正義』とは、悪の中にも棲息しているかもしれない。・・・・・・正しいものばかり集めたら、世界は息苦しくなり、潰れちゃう。だからバランスを取るためにわたしは極悪人でも誰も弁護を引き受けたがらないような人を引き受けることにしたの。世の中にはへそ曲がりが必要なのよ」・・・・・・。そういう意味では登場人物がいずれもキャラの立つ"へそ曲がり"だ。
本書は他に東城大学医学部付属病院を舞台とし、田口や白鳥らも登場する「双生」「星宿」「黎明」の3編がある。