凄い、けれん味がなく真っすぐ、ぶっ飛ぶ、破天荒な喜怒哀楽、エネルギッシュで面白い。島田雅彦の自伝的青春私小説。「埴谷さんは暗黙裡に自らの異端性を弟子が受け継ぐよう促した、と君は受け止めた。彼は戦後派のみならず文学一般に受け継がれてきた価値観を守れとはいわなかった。文学なんか解体しても一向に構わないから、果敢に新しい心の露呈に対面せよと迫ったのである。つまり、伝統を保守する正統なんか目指さず異端のままでいよ、と」「君は滴り落ちる汗を拭いながら、遠くに見える遺影(中上健次)に向かって、『路地の荒くれ男たちの短命にして波瀾万丈の物語をなぞらず、自己申告ではない、正真正銘の文豪になる手もあったじゃないですか』と虚しく呼びかけた」「島田を守れ。オレが死んだら、誰もあいつを守ってやれない――。君はその時初めて、弟分に惜しみなく注がれた中上の慈しみを痛感した」「君が出会ったのは全て偉大な異端者たちばかりだ。君は幸か不幸かその系譜に連なるよう仕向けられた。君は疲れを知らずにナンパにかまける体力はあったが、まだ偉大な先輩たちの屈折や情熱、思想を表面的にしか理解できないバカだった・・・・・・」「すでに時効を迎えた若かった頃の愚行、恥辱、過去の数々を文書化しておくことにした。それにうってつけの形式は私小説をおいてほかない。正直者がバカを見るこの国で本当のことをいえば、異端扱いされるだろうが、それを恐れる者は小説家とはいえない」・・・・・・。
少年時代、高校時代、大学時代、そしてその後の煩悶や葛藤、文士・思想家との格闘の遍歴。戦争を経て戦後を背景にして躍り出た世代、次に団塊の世代、そして島田雅彦氏らの世代の感性は当然異なる。しかし在前する世界を突破し、脱出しようとする力は世代を超え魅力的だ。"異端"と称される天才たちの生命力・エネルギーに心持良さを感ずる。それはかなり本質的なものだ。