海の地政学.jpg「覇権をめぐる400年史」が副題。海洋覇権の歴史は激しく、露骨なほどだ。大航海時代のスペイン・ポルトガルによる大西洋の東西分割であるトルデシリャス条約は、今日のブラジルがポルトガル語の国であることを改めて想起させる。次に東インド会社を設立し、貿易立国をめざしたイギリスとオランダが激突する。「国際法の父」グロティウス(オランダ)の海洋自由論は先行するポルトガルの大きな存在感を乗り越えようとした理論でもあった。1652年から1674年の間に3度にわたって戦われた英蘭戦争は、海洋覇権をめぐる本格的な初の戦争となった。18世紀から19世紀にかけて、イギリスは海洋大国へと躍進する。自国沿岸沖を領有しつつ、世界の海を支配したいイギリスは、各国の領海を狭くすべく領海3カイリ主義を打ち立てる。石炭ステーションを全世界に確保し、「海を制した大英帝国」が完成する。日英同盟直後の日露戦争、品質の悪い石炭しか得られなかったバルチック艦隊は黒煙で視界が不良だったという。スエズ運河をめぐってのディズレーリ首相とロスチャイルドの提携など、海洋の歴史は生々しい。20世紀に入ると主役の座はアメリカとなる。その背景に石炭から石油の時代がある。そして、パナマ運河の建設と巨大な海軍力を保有するようセルドア・ローズベルトは突き進む。海軍の軍拡競争の激化の時代から海軍軍縮会議の時代を経て、第二次世界大戦への戦艦から空母の時代へ移るのだ。

第二次世界大戦後、トルーマン宣言をきっかけに、途上国をはじめとする世界の国々が海洋の領有化に乗り出す。トルーマン宣言は海底油田の開発と水産資源の管理を柱とし、海洋を「海上」「海中」「海底」の3つの権利を狙ったのだ。そこで海洋の無秩序な領有化に規制をかけるように、1982年、「海の憲法」と呼ばれる国連海洋法条約が制定され、1994年に発効される。アメリカは深海底に関する条項に拒否反応を今も続け、署名していない。この条約は領海(12カイリ)、接続水域(24カイリ)、排他的経済水域(EEZ、200カイリ)、大陸棚、公海、島や岩礁の定義、海洋航行のルールなどを包括的に定め、海洋の平和利用と開発が両立するように制定され、ルールとして国際社会に浸透してきた。21世紀になって顕著なのは、中国の南シナ海への進出などの動きだ。本書は「国際ルールに挑戦する中国」と「海洋秩序を守る日本」の章立てをして、「日本の海上保安庁は、質量ともに世界の最高レベルに達しており、日本が世界に誇る海上法執行機関である。この分野で見れば、アメリカ海岸警備隊と並んで、世界モデルといってよいだろう」と言っている。きわめて誠実かつ俯瞰的に海をめぐる400年の歴史を描き出す。そして現在の課題も。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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