ザリガニの鳴くところ  ディーリア・オーエンズ著.jpgノース・カロライナ州の湿地で、チェイスという若者の死体が発見される。疑いの目は、村人から"湿地の少女"と呼ばれるカイアに向けられる。カイアは幼い頃に家族に置き去りにされ、たった一人で未開の湿地で生きてきた。偏見、蔑み、貧困、好奇にさらされるなか、学校に通ったのは1日だけ、語りかける相手はカモメしかいない。手を差し伸べたのは燃料店のジャンピン夫婦と、兄の友人で読み書きを教えてくれたテイトぐらい。圧倒的な孤独。「長い孤独のせいで自分が人とは違う振る舞いをするようになったことに気づいていた。しかし、好んで孤独になったわけではない。カイアは大半のことを自然から学んだ。誰もそばにいないとき、自然がカイアを育て、鍛え、守ってくれたのだ。たとえ自分の異質な振る舞いのせいでいまがあるのだとしても、それは生き物としての本能に従った結果でもあった」・・・・・・。作者はジョージア州出身の野生動物学者。本書は学術論文ではなく、小説としては初めての69歳にしての作品。素晴らしい。

文明と自然、野生のもつ生存の優しさと残酷さ、文明のもつ自堕落と軽薄、人間に内在する愛と暴力、偏見と差別等々を問いかけつつ、物語が進む。ミステリー小説を超えたそうした背景の深さと、「むせかえるほどに濃密な緑、広大無辺の闇、そこに息づく無数の命。その脈動と自分の鼓動を重ねるように生きるカイアの姿(友廣純)」は、感動を与える。野生の靭さとしたたかさは、文明の傲慢・暴力性と脆弱さの間隙を衝く。

"ザリガニの鳴くところ"とは「茂みの奥深く、生き物たちが自然のままの姿で生きる場所」ということ。湿地で孤独のなかで懸命に生き続けた美しく聡明な少女から見た現代社会の歪みや汚さが透視される。自然は残酷だが美しい。「本物の男とは、恥ずかしがらずに涙を見せ、詩を心で味わい、オペラを魂で感じ、必要なときには女性を守る行動ができる者のことを言うのだ」・・・・・・。野生動物学者でなければ描けない世界が心に響いてくる。しかもカイアは、1945年10月10日生まれ、私と4日違いという設定。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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