海猿に対する海蝶――。海上保安庁にいまだいない女性潜水士に挑戦する若き女性と家族の物語。素晴らしい感動作だ。何よりも日本周辺海域の安全を守る過酷な毎日の戦いに、自分を律し、仲間を信じ、黙々と精励する海保の使命感と責任感に頭が下がる。「正義仁愛」の精神が伝わってくる。
女性初の海保潜水士として注目されるなかスタートした忍海愛。兄の仁は奇跡の救難と呼ばれたフラワーマーメイド号事件で表彰された特殊救難員。父は、現役最年長記録を更新中の潜水士。まさに「正義仁愛」一家だ。しかし、彼らを育て支えてきた母・ひすいを、東日本大震災で失ったトラウマが家族を襲い、愛は「手を離した右手」に残る心の傷を抱え続けてきた。覚悟のデビューをした愛を待ち受けていたのは、八丈島沖5キロで横波を受けて転覆した船の救助作業、要救助者は2名だという。しかし、船名もわからず、様子がおかしい。救助された女性の様子も変だ。そして、この海難事件が、津波による母の死からぎこちなかった「正義仁愛」一家を巻き込んでいく。