日本を襲う問題の本質は、深刻化する財政再建は前提だが、「人口減少・少子高齢化」「低成長」「貧困化」であり、この3つにどう立ち向かうか。そのためにも、日本の経済システムをどう再構築するか。本書はこの大きな難問に対し、総合的に実態の数値を分析して、改革案の「たたき台」を示している。コロナ直前の著作だが、コロナ禍で、日本経済やデジタル化や財政の弱点がより鮮明になったと観れば、「日本経済システムの再構築」に今こそダッシュする必要がある。小黒さんの壮大な挑戦的提案に敬意を表したい。現在のシステム崩壊が顕在化し始めるのは、2025年(団塊の世代が75歳以上、維新から約160年、日露戦争から120年、終戦から80年、プラザ合意から40年)という年と観る。
第1章「人口減少、低成長、そして貧困化」では、この3つの難問の現状と課題を述べる。「静かな有事の人口減少」「急増する貧困高齢者」「日本の生活保護は効率化の余地がある」という。第2章「財政」では、「厳しい財政の姿」「増加の原因は社会保障費の増加と国債費の増加」「国債償還額が税収を上回るのは日本だけ」「低金利ボーナスは終わる」等を語る。第3章「日本銀行と政府の関係」では、日銀の異次元の金融政策で、長期金利を低水準に抑えており、約1000兆円もの政府債務の利払い費を約10兆円に抑制しているが、"綱渡り""地銀への影響""金融政策の出口と限界"等の脆弱性を語る。"打出の小槌""痛みの伴わない財政再建"の魔法はないという。
第4章は「年金」――人口減少・少子高齢化のなか給付削減が必要となるが、低年金・無年金・貧困高齢者急増問題がある。現役世代に過重負担を強いて、所得代替率にもムリが生ずる賦課方式をやめる。「積立方式への移行は不可能ではない」と、概要を示す。第5章の「医療」では、「疾病ごとに自己負担の割合を操作する」「給付範囲の哲学の見直し」「自己負担を増やして給付を減らす」「後期高齢者医療制度においても、年金のマクロ経済スライドなどの自動調整メカニズムを入れる」など、全体の総額抑制への"小黒案"を示す。「自己負担は診療報酬に比例するため、診療報酬を抑制しても75歳以上の自己負担(窓口負担)が基本的に増加することはない」という。第6章の「国と地方の関係」では、"道州制"への移行を前提としている。「財政」中心の考え方自体ではここは把え切れない問題だと私は思う。第7章は「成長戦略と格差是正」――「データ金融革命こそが成長の起爆剤」「米中貿易戦争のなかで日本はどう生き抜くか」「日本発の『情報銀行』構想と情報利用権」「データ証券化構想」「生産性向上と教育=所得連動型ローン」など、生産性向上、成長戦略へのフィールドを大胆に広げる。
それらを遂行するために、第8章で「社会保障の新しい哲学」として、3つの哲学「リスク分散機能と再分配機能を切り分ける(保険はリスク分散、税は再分配だが、公費が区別なく投入されており、公費は本当に困っている人々に集中的に配分する)。その上で真の困窮者に対する再分配を強化し、改革を脱政治化する」「透明かつ簡素なデジタル政府を構築し、確実な給付と負担の公平性を実現する」「民と官が互いに『公共』を創る」を提案している。社会保障改革やデジタル政府、公設寄付市場などの提案は、しっかりした哲学の共有なくして前には進めないというわけだ。第9章は「残された課題――財政再建と選挙制度」にふれている。
実態を数値的に分析して、包括的かつ大胆、挑戦的な提案。それだけ日本の危機が迫っているということだ。