西南戦争が終わった後の明治11年。「武技ニ優レタル者。本年5月5日、午前零時。京都天龍寺境内ニ参集セヨ。金十万円ヲ得ル機会を与フ」なる怪文書が全国に出回る。巡査の初任給が4円、年間で48円の時代で、途方もない金額だ。そこに集まった強者292人、いずれも「コロリ(コレラ)の妻子を救いたい」「幕末・維新での汚名を雪ぎたい」「武士のあらぶる心を発散させたい」と大金を求めていた。そこで発せられたのは心技体の全てを競う「こどく(蠱毒)」というゲーム。1人の持ち点が「1点」。互いを殺し合いながら点数を稼ぎ、東京(江戸)に着くときに30点の者のみが生き残るという「殺戮の旅」のゲームだ。嵯峨愁ニ郎、共に動くことになった12歳の少女・香月双葉、伊賀者の柘植響陣、京八流の愁二郎の義兄弟・四蔵や彩八(いろは)、狂人的な乱斬リの貫地谷無骨・・・・・・。
なぜこんなひどいゲームが。あたかも韓国映画の「イカゲーム」。本書の場合、仕掛けた黒幕は、士族の不満が充満し、維新の要人が次々に「暗殺」されたこの時代。前時代の亡霊の反乱を早めに鎮圧するために、「暗殺を実行し得る武に長けた者だけを、同士討ちさせて消し去る」策謀のゲームを目論んだようだが・・・・・・。殺戮のゲームの旅は始まったばかり。本書は三河の手前・宮宿あたりまで描く。東京(江戸)はまだまだ遠い。