「クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか」が副題。「ブルシット・ジョブ(デビィッド・グレーバー、人類学者)」の翻訳者・酒井大阪府大教授が、現実と実態を解き明かす。
ブルシット・ジョブ(BSJ)とは「完全に無意味で、不必要で有害でさえある雇用の形態。しかも当人すらそう感じている。さらにその雇用条件の一環として、当人はそうではないと取り繕わなければならないと感じている」ものだ。グレーバーの分類によれば「取り巻き(誰かを偉そうに見せたり、偉そうな気分を味合わせるだけの仕事。受付やドアマンなど)」「脅し屋(軍隊の人員、ロビイスト、企業弁護士、広報専門家、魅力的でない商品を広め錯覚させる宣伝)」「尻ぬぐい(上司の失敗や間違った指示の後始末の部署、歴史的に見て男性の尻ぬぐいを女性たちがしている、有名建築家の奔放な計画を現場で埋める)」「書類穴埋め人(官僚主義的手続きや書類作成、文書の体裁を良い感じにする報告書作り)」「タスクマスター(不要な無駄な仕事を作り出す上司、経営管理主義)」だ。イギリスでグレーバーは調査し、仕事の37%がBSJで、二次的BSJも含めるとすべての労働の50%超に及ぶという。ケインズは、経済が発展すると20世紀末には1日3時間労働や週15時間労働ですむようになると予言したようだが、外れた。ムダな仕事が作られているからだ。コロナ禍では、はからずもロックダウンという壮大な実験が行われたが、人が動かなくても経済自体はそれほど激減しない。そこにはブルシット・ジョブがある。しかも寄与していなくても高給取りが多く「他者ないし社会への貢献度が高ければ高いほど報酬が低く、貢献度が低ければ低いほど報酬が高くなる」という。しかし、必ずしも幸せを享受していないようだ。無目的に加えて「仕事をしているふりをする」「スマイルを提供するなど人当たりの良い仮面をつくる」などの苦悩、精神的ダメージを受けているともいう。
なぜ無意味な仕事が多すぎるのか。非資本主義社会を重要なフィールドとする人類学者は「人間は果たしてホモエコノミクスか」「金をばらまいて雇用を創出して景気を刺激して成長につなげるというケインズ主義らの『雇用創出イデオロギー』は普遍的か」などの根源的問題を提起する。「いつも働いていなくてはならないとする仕事のための仕事(雇用目的仕事)が、社会主義でもケインズ主義的福祉国家でも中心部分になっている」「日本における『怠け者』に見られたくないという精神的呪縛の強さ」「豊かな社会が最小の労働と最大の余暇とすれば、大昔の人たちはそうしている」「ネオリベラリズム(新自由主義)と官僚制(お役所仕事) は好相性であるという根深い問題」「中間管理職、管理に関わる仕事が増大している」「BSJとシット・ジョブ(3K)は正反対」「必要不可欠なエッセンシャルワークの逆説(給与も低い) (社会的価値と市場価値)」など根源的問題を抉り出していく。
BSJ現象は、実は働くとは何かという人間と現代社会の価値観の相対化と変更という大問題をボディ深く打ち込んでいる。