3つの連続殺人事件が起きる。共通点は、胸をナイフで刺されるという殺害方法と、被害者はいずれも過去に人を死なせたものであるということだ。刑事・新田浩介らが捜査に入り、ローテーション殺人事件ではないかと目星をつける。少年の暴力によって植物状態にされ、ついには失った「無念の母」の神谷良美、母親を強盗殺人犯に奪われた森本雅司、リベンジポルノによって娘が自殺に追い込まれた前島隆明の3人だ。いずれも「日本は罪の大きさに比べて罰が小さすぎる」という恨みを持っていると思われた。人を殺したのに刑期が20年以下とか、犯人が少年だと刑務所にさえ入らないとか、心神喪失等で刑事責任能力がないなどで、罰せられないということに対する苛立ちと怒りだ。そしてなぜか、その3人がクリスマスの夜、ホテル・コルテシア東京に集結することがわかる。ホテル側からも協力を得て、細やかな観察眼をもつフロントクラーク・山岸尚美が急遽、アメリカから呼び寄せられる。潜入捜査に入る新田浩介と山岸尚美の名コンビが復活する。4番目の事件とそれに苦しむ家族も現われ、緊迫したクリスマスの夜、事件は思わぬ展開を見せるのだが・・・・・・。
罪と罰。被害者の家族の苦しみと葛藤。「軽い刑罰」で生きる加害者側にもある苦しみ。業火に焼かれる人間の生と死のはざまで、「憎しみ」と「許す」との相克。「憎しみなんかは人生にとってただの重たい荷物だけど、それをおろす方法は一つしかない。ところがそれも失ってしまって」という重い言葉がのしかかるが・・・・・・。その答えも重いものであった。東野圭吾さんの「マスカレード」シリーズ、本書もぐっと胸に迫る。確かにホテルは仮面をかぶった人が集まるマスカレードだ。悲喜こもごもの人が日常からちょっと離れて仮面をかぶって集まるが、この社会がそもそも仮面舞踏会かもしれない。「仮面を剥ぐ」のは、ミステリーの根幹。マスカレード・ホテルはそれゆえに面白い。このシリーズ、続けて欲しいものだ。