「中国東北部の建築遺構を訪ねて」が副題。満洲国は、13年半ほどしか存在しなかった「国」だが、日露戦争、ポーツマス条約以降を考えれば、日本が約40年、「満洲は日本の生命線」というように投入した熱量はきわめて大きい。多くの歴史書や小説を読んできたが、本書は船尾修氏が、旅順、奉天(瀋陽)、新京(長春)、大連、ハルビン、安東(丹東)などを回り、建築遺構を訪ねて文を書く、写真紀行だ。きわめて面白く、「満洲とは何であったか」が浮き彫りにされる。しかも満洲全域にわたって俯瞰的に時代を見るがゆえに、きわめて有益であった。
満洲事変の舞台となった奉天、原野の首都建設計画の新京、満鉄の存在と役割、皇帝・溥儀が信じた偽りの復辟、ハルビンの悪魔の誘惑と731部隊、ロシア系ユダヤ人の受難、炭鉱の都・撫順・・・・・・。地図と事件が結びついてきた。