gentyou.jpg「玄鳥」「三月の鮠」「闇討ち」「鷦鷯」「浦島」の5編。中野孝次さんの解説がある。運命にもてあそばれる下級武士、意を決した剣の立合い、心かよう友との友情、控えめで自制心に富む美しい女性、ゆったりと流れる時代の風景と自然、漂う静謐・・・・・・。圧巻の作品。

 「玄鳥」――。「路は不意に眼が涙にうるんでいるのを感じた。すべてが終わったという気持が、にわかに胸にあふれて来たのである。終わったのは、長い間心の重荷だった父の遺言を兵六に伝えたということだけではなかった。父がいて兄の森之助がいて、妹がいて、屋敷にはしじゅう父の兵法の弟子が出入りし、門の軒にはつばめが巣をつくり、その兵六が水たまりを飛びそこねて袴を泥だらけにした。終わったのはそういうものだった」「路は叱ったが、路自身も粗忽でおもしろい兵六の嫁になりたかったのである。路は15で、節は13だった。そういう時は終わって、巣をこわされたつばめは、もう来年は来ないだろう。すべてが変わったのだった」・・・・・・。

「三月の鮠」――。「大声を発して勝之進は信次郎を押した。・・・・・・だが、その一瞬、目に留まらず動いた信次郎の竹刀が、勝之進の肩にはげしい音を立てて決まった」「(岩上は)巨利を得て富商らと利益を折半していたのが露見した。岩上も今度はおしまいだなと横山は言ったのである」「葉津は小桶を下に置くと、信次郎に向き直った。その肩にも降ってきた落葉が当たった。身じろぎもせず、葉津は信次郎を見ている。その姿は紅葉する木木の中で、春先に見た鮠のようにりりしく見えたが、信次郎が近づくと、その目に盛り上がる涙が見えた」・・・・・・。何という描写だろう。

「闇討ち」――。開墾派の迫間家老と産業派の寺内家老の暗闘のなか、清成権兵衛は罠にはまり闇討ちを図り、変死する。納得できない仲間の興津三左衛門と植田与十郎。真実を突き止め恨みを晴らす。「いい日和だったが、二人とも背のあたりに、こういうときにいるべきもう一人が欠けている寂寥を感じていた。口少なにむじな屋を目ざして歩いて行った」・・・・・・。

「鷦鷯」――。横山新左衛門は貧しく、内職をしているが、誇り高い下級武士。娘の品はとても良い娘だが、縁談がなく悩んでいる。金貸しの悪名が藩の中で轟いてる石塚が、その息子・孫四郎はどうかと声をかけてくる。断固として断る新左衛門だが・・・・・・。「『聞いていなければ、えらい目にあうところでした』――孫四郎はそう言って頭を下げたが、孫四郎の腕なら新左衛門の警告がなくとも、何とかできたろう。あいつめ、年寄りを持ち上げることも知っているらしい、と思ったが、気分は悪くなかった」・・・・・・。

 「浦島」――。御手洗孫六は、無類の酒好き。酒で失敗し左遷される。18年後に無実と認められ勘定方に戻ったものの、時代も変わり若者たちに馬鹿にされる始末。浦島太郎だ。その鬱憤のなか、またもや酒を飲んでしまうのだ。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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