「サイエンスの世界にようこそ」「科学は人の営み」「こんなに楽しい職業はない」「サイエンスは社会的な存在である」――。ノーベル賞等を受賞、基礎科学の第一線を走ってきた研究者の2人が語り合う。
「こんな役に立たない研究をしていていいんでしょうか」「失敗しないためにはどうすればいいですか」――今の社会は、「成果」が求められ、しかも短期で、どの分野でも。この風潮こそ最大の問題と警鐘を鳴らす。「こんなに楽しい職業はない」「研究者の醍醐味――世界で自分だけが知っている」「研究は面白いから、選択は面白い方を」「一番乗りよりも誰もやっていない新しいことを」「効率化し高速化した現代で、待つことが苦手になった私たち」「安全志向の殻を破る」「解くではなく問うを」「科学を文化に」と語り合う。社会も企業経営も大学などの研究も、短期の成果を求めるようになっている。株主資本主義も大学などの研究費削減も、短期の成果をますます求めている。日本の基礎研究が細る所以である。すべてに余裕がなくなっているのだ。「役に立つ」の呪縛から飛び立とう、と様々な角度から強調する。
寺田寅彦は「科学者になるには『あたま』がよくなくてはいけない。しかし一方でまた『科学者はあたまが悪くなくてはいけない』という命題も、ある意味ではやはり本当である」と言ったという。「いわゆる頭のいい人は、いわば足の速い旅人のようなものである。人より先に人のまだ行かない所へ行き着くこともできる代わりに、途中の道端あるいはちょっとした脇道にある肝心なものを見落とす恐れがある。頭の悪いのろい人がずっと後から遅れてきて、わけもなくその大事な宝物を拾っていく場合がある」「頭のいい人は見通しが利くだけに、あらゆる道筋の前途の難関が見渡される。そのためにややもすると前進する勇気を阻喪しやすい。頭の悪い人は前途に霧がかかっているためにかえって楽観的である」「頭の悪い人は、頭の良い人が考えて、だめに決まっているような試みを、一生懸命に続けている・・・・・・」と面白いことを言っている。また永田さんは「よいお友達というより『へンな奴』を友人に持つほうがはるかに面白いと思っている。へンな奴とは、自分にはないものを持っている奴ということでもある」と語る。大隅さんは、鷲田清一氏が紹介している言葉を引き、「ちょっと変わったヤツが必要なんですよ。優等生ばかりを集めていてもいい酒になりません。ブレンドウィスキーはいろいろな原酒を混ぜて造る。その時欠点のない原酒ばかり集めて造っても、『線が細い』ものにしかならないが、変わり者が混じることで初めて、ハッとするいいお酒ができるというのだ。研究者の世界と同じだと思わずうなずいてしまった」と言う。面白い話だ。「科学の価値も、芸術やスポーツ等と同じように、役に立つかという視点ではなく、未知のことが解明されることを人類の共通の資産として純粋に楽しむ社会であって欲しいと思う。私が『科学を文化の一つに』と考える真意である」とも言う。そして繰り返し「『役に立つ』との呪縛を解き放ち、知的好奇心から出てくるものが基礎科学だと思う」と二人は言う。社会の厚み、人間存在の深さが、基礎研究だけでなく試されている。