80歳の 「妻へ、子へ、そして後なる人たちへ」という副題が付してある自伝だが、格調、見識、教養、哲学、文化、バランス――高潔な人格が全文を通して伝わってくる。凸版印刷の特別相談役、日本経団連常任理事をはじめとして、わが国を支えてきた鈴木和夫さんの自伝だが、感銘をもって一気に読んだ。
戦争をどうとらえ、そして戦後をどう考え、生きてきたかを知りたいと思ったが、日本が繁栄し、正道を歩んでこれたのは、こういう人たちがいたからだとの思いを深くした。
「人間と自然との調和、物と心のバランス(日本美)」「冷徹な市場優先主義批判」「天生我材心有用(李白)」「有志事竟成」「マイネッケの近代史における国家理性の理念(国家は常に権力衝動に動かされるが、野放しにこの衝動に身をまかせれば、必ず破滅の悲運に見舞われることは、歴史の教えるところである)」「日本海軍が壊滅したのは、米軍にたたかれる前に、内部崩壊していた」――。
写真集も本当に美しい。
たしかに「国の財政」「少子高齢社会」の両面から、日本は破綻寸前という論は多く、それにともない負担増の悲鳴が聞こえる。増田さんは、「現実を見よ」「現場を見よ」「凡人の良識を信頼せよ」という。底上げ教育による日本人の底力、製造業の"生もの"をつくる価値創造の底力、厳しいマーケットで鍛え上げられた日本の小売業、エネルギー効率のよい国・日本、内需が高い国・日本などを示し、官公庁依存であるゆえに、低い生産性になっている公共事業・農業にメスを入れよという。
国債についても低金利での借り換えや永久債、利便性の高い都市への集中、都市再生債、ピークロード運賃などを提唱する。
「凡人なりの結論」を忠実に実行することと、自力での生産性が不可能なほど脆弱化した産業へのメスを訴える。教育と良識と倫理をもつ真面目でキメ細かな日本人がこわれない限り、国家破綻はありえないということか。
「国会報道からTVタックルまで」との副題がついている。本にして論ずるには難しいテーマだが、よく論じている。政治にはしっかり論評できる新聞が最もふさわしいと思うが、間違いなく政治の場においてもテレビの影響力が他を上回るようになった。
民意が欲するところを番組にして、民意の欲する形で提示していると、醸成された空気から脱することができなくなり、政治的方向性がつくられてしまう。
「もっと他のことも扱ってほしい」「もっと落ち着いて論じさせてほしい」――我々政治の側からは映像の力を認識するからこそ、そうした気持ちが常にある。憲法論争というといつも「9条」、教育基本法論争というといつも「愛国心」。たしかに1時間の番組の討論ではそれ以外も含めて論じたらとても足りないし、深まらないし、どうしてもパフォーマンスになる。
星さんは、「メディアの立て直しが急務」というが、じつは、社会全体が、「面白さ」「深さ」「一体感」をどう育てるかという曲がり角に来ており、それほどテレビ、新聞の影響が大きい時を否応なく迎えている。
「東アジア共同体の道」の副題がついている。
ナショナル・アイデンティティの確立は、グローバル21世紀の課題だが、それを越えた共通のアジア・アイデンティティ、未来のアジア構想「アジア共同の家(アジアン・コモンハウス)」を提唱している。「テリトリー・ゲーム」から「ウェルス・ゲーム」、そして「21世紀のアイデンティティ・ゲーム」の時代の次が、組み立てられなくてはならないと、次代を眺望している。
思想・イデオロギーの諸テーマは、時に「神学論争」などといわれて、私自身、失笑することもしばしばだが、判りやすく語れるかどうか――力量がこれほどあらわになるものはない。こんなにも明確にやさしく力みなく語れる松本さんは卓越した思想家だ。
勿論、論争の激しさをたたえていることも大変な魅力だ。
