「君がいつもそばにいるから、毎日があたらしい」「新しい音楽に出会って、それまで見ていた世界がガラッと変わる」――。人や音楽。人生は、出会いによって目の前の景色が色づき軽やかになる。「自分には生きる意味がある」と切り替わる瞬間があり、目の前がパッと明るく面白く(面の前が明るく) なる。
中学生の新----幼い頃から家に飾られていた今は亡きカリスマ的ミュージシャンの写真を父と聞いて育ってきた新。いい仲間が3人。「バンドをやろう」と匠人が言い出し、匠はベース、陽菜はドラム、新はギター。「うたいながらぼくは、目の前の光景が、ぐんぐん色づいていって、輪郭がはっきりしてくるのを見た。あぁぼくの世界、今まで色がとても薄かったんだな」と。ある時、祖母からの手紙がきっかけで、「ぼくは有名なバンドマンの隠し子ではない」と知ることになる。こっそり祖母を訪ね、衝撃的な父の死の事実と母のとった行動。ずっと母は何も言わない。隠された真実に触れ、心が揺れる。祖母は「あなたのお母さんは、とんでもなく強い人だと思うわ」と微笑むのだった。
母親の晴本くすか――。幼い頃から家庭環境に恵まれず、友達もいない、"誰にも見えない存在"として生きてきた。父はほとんど帰ってこないし、母は「あ、そう」と言うだけ。ある時、音楽に出会ったことで、「なぜ泣きたいのかわからない。町に色がついてることを、光を発していることを、音に満ち溢れていることを、くすかはこの日にはじめて気がついた」・・・・・・。高校2年の時、初めて人間の友達ができた。庭田さん。そして東京の大学ヘ進学、そこで全く同じ音楽趣味の豆田時生に会うのだ。
いろいろあったが、再会後に結婚、子供がお腹に宿る。しかしその時、突然のホーム転落事故で時生が死んでしまう・・・・・・。
皆、一生懸命生きる。辛いこと、孤独・絶望もある。誰もが弱い。だが、「この絶望は私一人ではない。知ってる人がいてくれる」。1、2ヶ月で一気に書いたと著者は言う。そうだろうと思う。登場人物の感情のうねりが途切れない。人間っていいなと思わせるリズムがある。喜びと感動、思いやりが溢れている。素晴らしい小説に出会った。
