「三つの領土問題はそれぞれの力点が異なっている。北方領土は"歴史問題"、竹島は"政治問題"、尖閣諸島は"資源問題"が主である」と保阪さんはいう。東郷さんは、「日本の国際場裏における力の弱体化が背景にある。経済力、政治力の弱体化に、日米関係の混乱が拍車をかけた」といい、「領土問題が思考停止となっている」ことに警告を発する。
毅然たる姿勢というのは「強気一点張り」ではない、将来にわたっての展望を見、戦略性をもち、外交力を駆使して、命をかけてやれば必ず拓かれる。
たとえば、北方領土問題は、"領土問題"ではない。歴史問題だ。民族の屈辱として受けた"裏切り、残虐、領土的野心"の三つが残ったのだ、と指摘する。
鍵になる文書は(1)1951年署名のサンフランシスコ平和条約(2)1956年署名の日ソ共同宣言(3)1960年のグロムイコ声明――とする。そして「日本の一発勝負案とロシアの妥協案」として三つの合意文書、「1991年の海部・ゴルバチョフ声明」「1993年の東京宣言(細川・エリツィン)」「2001年のイルクーツク声明(森・プーチン)」を示す。当事者だけに生々しく、激しい熱さと息づかいが聞こえるほどだ。2006年からの「面積等分論」の浮上やプーチンの心の動きを歴年ごとに語ってもいる。メッセージをかぎとり、チャンスをつかむことができたのに失敗したという外交の反省も随所に語られている。
竹島をめぐる1905年以前の歴史をたどり、編入時点における竹島「無主」の問題、日韓のギャップのなかでの1998年の日韓漁業協定、そして今日。尖閣については、「あらゆる外交的手段を尽くして武力衝突を回避する施策を」と訴える。
「手遅れになるな」――東郷さんの主張が出ているが、本書は今年2月発刊。事態は進んでしまっている。更に「手遅れになるな」だ。日本の総合力もだ。