定年後の人生は長い。「悠々自適」「好きなことに時間をかける。趣味に、旅行に」「ゆっくり夫婦で」などというのは恐らく3カ月だけ。多くの人は「やり切った。会社人生に思い残すことはない」などという感覚をおそらくもたない。内館さんは「成仏してない」という。もう一回挑戦したいと思っても、社会は「終わった人」と見る。着地点に至るまでの人生が恵まれていても「かえって"横一列"を受け入れられない不幸もある」のだ。
「年齢や能力の衰えを泰然と受け入れることこそ人間の品格」「重要なのは品格のある衰退(坂本義和)」というが、人生も街づくり(コンパクトシティ)も「上手に縮む」のは簡単ではない。「思い出と戦っても勝てねンだよ」とはプロレスラーの武藤敬司さんの名言で、本書でも何度も出てくる。たしかに定年後、美化された思い出ばかりと格闘しがちになろう。
「介護」「認知症」「下流老人」・・・・・・。これも深刻だが、元気な高齢者の居場所、孤独、暴走老人も大きな問題だ。全ての人に定年が来る。秋が来る。そして今やなかなか死が来ない。そして生老病死の人生の着地点は大差がないものだ。内館さんのこの小説で、様々なことを360度にわたって考えさせられた。