運命、縁、親子、善き人々・・・・・・。静かに丁寧に、そして正確に心の襞に入り込んでくる情感。そんな心持よい感慨が読後の味だ。
14年ぶりの私立探偵・沢崎シリーズ。沢崎の下に、金融会社の支店長・望月と名乗る男が訪れ、融資が内定している料亭「業平」の女将の身辺調査を依頼される。ところが女将はすでに死亡していた。沢崎が勤務先の金融会社を訪れると、突然の強盗事件が発生。しかも支店長は行方不明となる。巻き込まれた若者ともども、事件の深みに引きずり込まれていく。
情感がじわじわと迫ってくるが、沢崎と新宿署の警部、清和会のヤクザ等とのひねくれた会話のやりとりもアクセントを与える。事件というより、テーマは各々の人が宿命にさらされながらも「生きていく」ということか。「それまでの明日」とは、そういう時間軸。