現代社会にありうる「ままならない現実」「内に抱える"秘密"」を鋭角的に、しかも優しく描き出す6篇。それぞれが全く違う状況・場面を鮮やかな文体でスパッと描き、爽快感まで漂う。
第1話「ネオンテトラ」――夫婦円満を装いつつも欝々と不妊に悩む相原美和は、家庭に恵まれない中学生の男子・笙一と出会う。孤独な二人は逢瀬を続けていくが・・・・・・。第2話「魔王の帰還」――鉄二は平和な高校生活を送っていたが、188cmもあり、"魔王"とも称されていた恐ろしい姉ちゃん(真央)が出戻ってきた。「あんたを嫁にもらおうなんて人類は後にも先にもきっとあの人だけよ」といわれて結婚。夫の勇と離婚話が出ているようだが、その裏にある"秘密""真相"とは・・・・・・。絶妙で面白い。
第3話「ピクニック」――初孫の誕生に喜ぶ祖母とその娘家族。だが、生後10か月のその初孫・未希が娘・瑛里子の留守中、突然不慮の死を遂げる。そして祖母・希和子が逮捕され、途方に暮れる。その真相はいったい・・・・・・。第4話「花うた」――これも不思議な物語。兄を殺され、天涯孤独となった新堂深雪は、弁護士に勧められて服役中の「兄を殺した加害者」の向井秋生に手紙を送る。漢字も書けなかった秋生が、手紙をやり取りするなかで、人間としても成長して、二人の心は次第に結びついていくのだった。罪とは、罰とは、反省とは、償いとは、そして赦しとは・・・・・・。
第5話「愛を適量」――中学教師の慎悟は、ある事件を境に教師としての情熱や意欲などとっくに涸れ果て酒びたりの"死んだ"ような毎日だった。そんな時、別れた妻が引き取っていた娘・佳澄が突然、戻ってきた。しかも男のようになって、「俺トランスジェンダーでFtMだって」というのだ。とまどいながらも親としての愛を注ごうとするが・・・・・・。またも過剰な押し付けがましい愛となって・・・・・・。愛の"適量"とは・・・・・・。第6話「式日」――高校時代から友達の少なった仲良しの先輩と後輩。その後輩から父親が死んだので、葬式に出てほしいと頼まれる。葬儀への道中、大切なことも言えずに別れてしまった二人の間の心中が語られていくことに・・・・・・。
いずれも巧妙な「えっ」と驚くストーリーの展開を見せつつ、心の中に潜む「秘密の芯」を探り当てていく。重い話が軽妙でユーモラスに感じさせる傑作。