「日本もアメリカも、経済社会がバブルにまみれ、強欲と拝金主義に席捲されたときに、人の心から大事なものが失われてしまった。なんでもデジタル志向で、「0か1」しかない。その中間を配慮できない。この思考法が社会を大きく分裂させてしまった。最悪のものが、お金を基準とした『勝ち組・負け組』の分類だった」と神谷さんはいう。
司馬遼太郎が亡くなる前、最後の対談を思い出す。「日本はこれからどうなりますか」という質問に「未来はない。ダメだと思う」と答えていたという記憶がある。
たしか96年の2月位の話だ。理由は「バブルによって日本人がダメになった」だった。今のアメリカをはじめとする先進諸国、そして世界。借金と消費ならず浪費社会、浪費に頼った成長政策。「借りた金で今日を愉しむ」「借りた金で投機する」「ノンリコースで借りた金は、返せなくなったら担保物権の鍵を渡せば終わり」――金融が収益の4割を占めてしまった米国、そのなかで強欲資本主義の先頭を走り続けたウォール街の自爆。
社会を構成する人間社会自体の反省と再建というのがまさに今の課題。社会の劣化、人間の劣化をどう立て直すかを問いかけている今の金融危機だ。暴走を食い止めるためにルールをどうつくるか、それは限度を知り、節度を守るという哲学的な人間の総合力が底流になくして成しうるものではない。