藤原新也氏の「東京漂流」を衝撃的に読んだのは、相当前のことだ。その感性はよりとぎすまされ、やさしく、透明になっている。「尾瀬」「コスモスの野」「トメさんと菜の花」「カフェ恵と真っ黄のアワダチソウ」「宮間(写真家)とアジサイの花」「カハタレバナ」・・・・・・。
美しい花が目に浮かぶような小説が続くが、都会の喧騒のなかで、人々の"渇き"のなかで、男と女の交わりや別れ、生老病死が描かれている。しかし、藤原さんは「人間の一生はたくさんの哀しみや苦しみに彩られながらも、その哀しみや苦しみの彩りによってさえ人間は救われ癒されるのだという、私の生きることへの想いや信念がおのずと滲み出ているように思う」といい、「哀しみもまた豊かさなのである」という。
「他者への限りない想い」が哀しくも美しく、感動的に描かれている。