
文化を築き支えてきた伝承者・老人達自身が語ることを、丁寧に克明に描き、生き生きと蘇らせている。1960年の本で、宮本民俗学の結晶だ。
私の生まれたすぐ近くの北設楽郡旧名倉村が「名倉談義」として出てくるが、地名も土地柄もなるほどと思わせるもので、当時の田舎の生活そのものが描き出されている。民衆史、民俗学そのものだ。
「私の一ばん知りたいことは今日の文化をきずきあげて来た生産者のエネルギーというものが、どういう人間関係や環境の中から生まれ出て来たかということである」と宮本氏はいう。
「中央的・権威的な匂いのする既成の民俗学に抗して、泥にまみれた庶民の生活そのものの中に、人の生きる明るさ、たくましさをとらえようとする宮本氏の民俗学」(網野善彦氏)だ。
多くの人が圧倒的に基本にすえるすぐれた一書だ。