中勘助(明治18年生まれ)27歳の作品。東京朝日新聞に漱石の「行人」中断のあと大正2年4月8日から6月4日まで連載され、後編も大正4年に連載され る。明治20年代の東京歳時記ともいえる四季、人の交わり、淡い恋心を、虚弱で鋭敏な感性をもった主人公が、子供の頃の記憶をたどる形で、儚くかつ清冽に きれいに描き出す。
昭和20年代にはまだそうした日本の社会があった。なつかしい。私の田舎の(三河)の言葉が、神田や小石川に出てくるのは、なぜだろうか。いろいろな思い
を心に浮かべさせてくれ、声を出してたどるように読んでしまう。それは子どもの心にうつる世界をピュアに描き切っているからだろうか。それとも明治の終わ
り、政治・外交の激動の時代の渦中にも、知性の軸がしっかりしているからだろうか。
最近、あっちこっちで、中勘助の「銀の匙」を耳にする。読んだのはおそらく学生時代以来だと思う。
最近、あっちこっちで、中勘助の「銀の匙」を耳にする。読んだのはおそらく学生時代以来だと思う。