戦後の混乱期に「野球」の夢を追いかけた人たちの物語。日本リーグを立ち上げ、「日本ワールドシリーズ」の開催を考えた藤倉、そしてかつての下手投げ名
投手・矢尾、米国のニグロリーグの大スター・ギブソンとペイジ。日米の戦争のなかで、野球があるゆえの人種を越えた友情。黒人として初の大リーガー、
ジャッキー・ロビンソンのドジャースでのデビュー。
スポーツにはこうした友情がある。感動の実録小説。
辛亥革命(1911年)から100年。「君は兵を挙げたまえ。我は財を挙げて支援す」――梅屋庄吉が孫文を生涯、支援した資金は、今でいえばなんと1兆円
とも2兆円とも。辛亥革命後のクーデターで失脚して亡命した孫文と宋慶齢の結婚式も、新宿区百人町の梅屋庄吉の広大な邸宅で行われる。
日中というより世界をまたにかけ、アジアの独立富強に動いた梅屋。孫文、宮崎滔天、頭山満、萱野長知、そして犬養毅・・・・・・人脈もケタはずれ。財力が
あるというだけではない。困っている人を放っておけない。人助けの義侠心。それもケタはずれだ。さらに孫文が日本で行った遺言とも言うべき最後の有名な演
説――。「日本民族は、すでに一面欧米の覇道文化を取り入れると共に、他面、アジアの王道文化の本質を持っている。今後日本が世界の文化に対し、西洋覇道
の犬となるか、あるいは、東洋王道の干城となるか、それは日本国民の慎重に考慮すべきことである」。孫文の大アジア主義、民族・民権・民生の三民主
義・・・・・・。「梅屋庄吉は孫文に惚れ込んでいた」といわれるが、そうではない。アジアへの、弱者への思いあふるるなか、一緒に革命をやり、プロデュー
スしたのではないかと、筆者小坂文乃さんは書いている。小坂さんは梅屋庄吉の曾孫。あの松本楼を営む小坂家。縁は今も続いている。日中激動の1900年を
前後する約50年間の歴史は生々しい。
時は1500年台前半。北条氏の風摩小太郎、扇谷上杉氏の曽我冬之助。武田氏の山本勘助――この三人が関東の支配権をめぐって鬼神のごとき死闘を繰り広げ
るが、本書はその助走。主人公は早雲庵宗瑞(後の北条早雲)が見出した逸材・小太郎。「人材は見つけるもの」といわれるが、息子・氏綱の子である千代丸の
代になっての軍配者として小太郎を育てる。20年、30年後のことを考えてだ。
軍配者とは単なる軍師ではない。占術と兵法の二つの能力を併せもつ「戦の全般に関して君主に助言する専門家」だ。当時の戦争がいかなるものであるかがよく
わかる。関東の攻防と背景が浮き彫りにされるが、早雲を「稀代の英雄と世間は呼ぶが、英雄というより仁者と呼ぶのがふさわしい」と描く。戦いではなく、民
を農民を安らかにしてこそ支持が得られることを早雲は示す。三人の好敵手は、学徒3000の最高級の学府・足利学校で学ぶ。面白い。