「マッカーサーの財宝、200兆円を隠匿せよ」――1945年8月10日、阿南陸軍大臣、杉山元帥、梅津参謀総長ら5人に託された真柴大佐と小泉中尉と運転手役の曹長の3人。弾薬工場に運ぶ役を担った13歳の女生徒35人。8.15を境に、マッカーサー、日本国憲法制定にかかわったあのホイットニー、日系の通訳イガラシ中尉がそれにからむ。緊迫した生死をかけた極限の世界を描いた浅田次郎20年前の迫真の作品。エネルギーが伝わってくる。
日輪の遺産は財宝ではない。日本という国に蓄積された底力、日本人一人ひとりに備わる意志とエネルギー、世界にない勤勉で、勇敢で、優秀な民族の底力を、マッカーサーに語らせ、34人の女生徒の死で表わし、小泉の有能や真柴の責任と決定心で示している。諸現象の表裏、戦いの勝敗を越えて国家の興亡の核心は、そうした背骨がありやなしや、責任と勇気がありやなしやではないのか。浅田次郎の源流を見る思いだ。