
私と同世代を生きて、その日中の歴史のど真ん中で苦闘してきた前中国大使・宮本さんが、じつに精緻に日中の政治・社会や人心の動きの変化を描いている。貴重だ。その場面、場面にいた私としても、その場がいかに重要であったかを改めて感じ入った。
2008年の第二次共同声明で、日本と中国は「戦略的互恵関係」の時代に入り、世界の中の日中関係となった。当然、歴史問題は消え去ることのないテーマだが、新たな段階に入った。中国の経済発展は、心の余裕をもたらしたが、世界の中での役割りという新たな課題や国内格差の問題が生じ、日本では社会の沈滞感が中国に対する厳しい目を生み出している。新たな未来志向の協力関係が築かれるには、たゆまぬ努力が必要とされる。
宮本さんは、中国の課題とともに、日本の再生、日本が世界から尊敬される大国であり続けることが「鍵」だという。軍事、安全保障面もだ。主権の護持という大義名分のもとで、最後は海上自衛隊と中国海軍が出て来ざるを得ないとしたら、衝突回避のためのメカニズムがない現状では、対立自体を避けるしかない。外交の知恵だが、それは人間の知恵と双方の深い理解あってのことだ。重層的な対話が不可欠だ。
それは経済も同じ。ソフトパワーを磨け。日本は過小評価されている。等身大の日本への深い議論をと言う。宮本さんならではの著書。