「ならん!ひとりの馘首もならん」――何もかも失った日本と日本人の昭和20年9月、国岡鐡造(出光佐三)は言い切る。「わが社には何よりも素晴らしい財産が残っている。一千名にものぼる店員たちだ。......社是である『人間尊重』の精神が今こそ発揮されるときではないか」「もしつぶれるようなことがあれば......ぼくは店員たちとともに乞食をする」――。「融資が受けられないのは、なぜなのかわかるか。......君の真心が足りないからだ。至誠天に通じると言うではないか」――。
どこもやらない、誰もやれない海軍燃料タンクの底に残った残油を浚う作業をやり抜く国岡商店の決死のサムライたち。そして石油の時代を予測し、時の覇権たるメジャーとも米英とも大企業や官僚とも戦い屈することのなかった国岡鐵三。
「GHQ」「公職追放」「石統との戦い」「士魂商才(武士の心を持って商いせよ)」「スタンダードとの戦い」「セブン・シスターズとの戦い」「極秘のイラン石油と日章丸」......。
「日本人の力。こういう日本人がいるかぎり、日本は必ず復興する」「楽しい50年ではなかった。苦労に苦労を重ねた50年であった。死ななければ、この苦労から逃れることはできないのではないかと思われるほどの苦労の50年だった」「全財産を投げうち、挫けそうになった鐵三を、頑張れ、諦めるな、共に乞食をしてもええと支えてくれた日田重太郎」「日本人の誇りと自信を失わなければ、何も怖れることはない」――「人間尊重、戦い続けた国岡鐵三の70年の道は正しい日本人の大道であった」と、百田さんは結んでいる。石油を武器に変えて世界と闘ったすさまじい男の歴史経済小説。