小野寺一路、父が謀略によって不慮の死を遂げたあとを受け、突然、参勤交代を取り仕切る御供頭(おともがしら)の大役を継ぐことを命じられる。主君は知行7500石の旗本、西美濃田名部郡を領分とする蒔坂左京大夫だ。道は中仙道。季節は冬の12月、寒い難所続きだ。
参勤交代という珍しいテーマが扱われ、難所と各宿場での当時の現場の状況が活写されてきわめて新鮮。貫かれているのは、「参勤交代の行列は行軍也」ということだ。物語は「一路とは人生一路、命を懸ける道を歩むこと」「一所懸命」、そして「馬鹿とかうつけ、呆けたふりをしている賢者・名君」の振る舞いや、「今の世の中、うつけでのうては命をなくすゆえ」「人間には隙がなくてはならぬ」「人間の幸福とは、ある程度のいいかげんさによってもたらされるものだ」など、人間学の世界へといざなう。
表紙絵に全てが描かれており、これを見ながら読んだ。