あの昭和の戦争が終わって10年余――。昭和34年に着工した新幹線は、わずか6年で完成、39年の東京オリンピック直前の10月1日に開通した。きわめて鮮明に、高揚感があったことを覚えている。しかもそれが企画された時は"鉄道斜陽化論"の真只中にあった。
「ナショナル・シンボルとしての新幹線」「ナショナリズムがつくりあげた新幹線」だと藤井さんはいう。そこでいうナショナリズムとは、「歴史と伝統、文化を中心とする民族主義(エスニシズム)」と「近代化の過程で生ずる政治的、経済的意志に基づく政府主義(ステイティズム)」の二つを焦点とする楕円的なる性質を帯びたものであり、両者の化学反応で生ずるものと指摘する。つまり新幹線は「敗戦で傷ついたナショナル・プライドを取り戻し、日本国民が一致団結して立ち上がる、そして文字どおり"世界一"の技術でつくり上げた新幹線を、オリンピックという全世界が注目する舞台で世界に見せつける、という"大きな物語"のうねりのなかでつくり上げられた」というわけだ。
新幹線、高速道路、リニア、東北の復興――「つなげよう、ニッポン」を成功させるためには、精神的結びつきが不可欠だとする。