
しかしその源には、信州の古刹・蓮華寺がある。高野の妻となるのが蓮華寺住職の娘鶴江、そしてこの蓮華寺を舞台にして島崎藤村は「破戒」を書く。3回にわたりシルクロード探検隊を派遣した西本願寺第22世門主・大谷光瑞には蓮華寺関係者が随行者となったり秘書になったりする。また作曲した岡野貞一にも当然ふれている。「絶妙のコンビ」であるとしながらも「もともと意気投合してコンビを組んだのではない。文部省唱歌編纂という作業が彼らを引き寄せた」と述べている。
「こころざしをはたして いつの日にか帰らん」「夢は今もめぐりて 忘れがたき故郷......」。「故郷とは、自分の若い日の夢が行き先を失い封印されている場所のことだ」と猪瀬さんは言っている。そして藤村についても「若い辰之を触発した島崎藤村は夢を生きつづけた。夢を生きつづけるとは、鬼神に身を委ねることである。......大きな代償を払わざるを得ないものだ」ともいう。思いが時間をさかのぼる書だ。