唱歌誕生.JPGかつて長野県を訪れたとき、「郷土(ふるさと)」や「春の小川」などを作詞したのは長野県の高野辰之という人だという話を聞いた。本書は文部省唱歌「郷土(ふるさと)」「朧月夜」「紅葉(もみじ)」も、「春の小川」「春が来た」も全部、高野辰之によることを、徹底して調べあげている。そして、それらの歌が、志を果たせず下級官吏になった高野の人生そのもの、そして明治、大正の時代を、そして北信濃を投影しているものであることを語る。印象深い。

しかしその源には、信州の古刹・蓮華寺がある。高野の妻となるのが蓮華寺住職の娘鶴江、そしてこの蓮華寺を舞台にして島崎藤村は「破戒」を書く。3回にわたりシルクロード探検隊を派遣した西本願寺第22世門主・大谷光瑞には蓮華寺関係者が随行者となったり秘書になったりする。また作曲した岡野貞一にも当然ふれている。「絶妙のコンビ」であるとしながらも「もともと意気投合してコンビを組んだのではない。文部省唱歌編纂という作業が彼らを引き寄せた」と述べている。

「こころざしをはたして いつの日にか帰らん」「夢は今もめぐりて 忘れがたき故郷......」。「故郷とは、自分の若い日の夢が行き先を失い封印されている場所のことだ」と猪瀬さんは言っている。そして藤村についても「若い辰之を触発した島崎藤村は夢を生きつづけた。夢を生きつづけるとは、鬼神に身を委ねることである。......大きな代償を払わざるを得ないものだ」ともいう。思いが時間をさかのぼる書だ。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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