
科学者の"卵"どころではない。全ての研究者というより、全てのリーダーに贈る言葉だ。日本学術会議会長でもあった生化学者・江上不二夫さんの師弟の言葉を、弟子の糖鎖生物学者・笠井献一さんが生きいきと語る。生命科学の知識があったらどれほど面白く、元気になるかと悔しいほどだ。
「生命は人智をはるかに越えている。自然は人間の頭で考えられるよりもはるかに偉大で複雑だよ」「実験に失敗したら喜びなさい。......先入観にとらわれるな。視野が狭くはなかったか。実験結果はいつも正しい」「研究はスポーツ競技じゃないんだから、目的は他人に勝つことじゃないよ」「自然のやることは、人間の発想をはるかに超えている」「牛馬的研究、銅鉄的研究も悪くない。独創的研究を追い求めるな。独創的な仕事をせよ」......。生命、タンパク質、核酸、糖、酵素、毒素、代謝、iPS細胞、生命の起源、宇宙化学――そこに世界の学者が徹底して研究し踏み込んでいくが、それを牽引し弟子を鼓舞したのが江上不二夫であった。天衣無縫、天真爛漫、荒唐無稽、大胆不敵、超楽天的、ほら吹き、頭脳の空中ブランコ、度肝を抜く仮説、最高のポジティブ解釈。その自然や生命に対する謙虚さとあくなき追求、マシンガントークと弟子育成の情熱が伝わってくる。副題に「江上不二夫が伝えたかったこと」とある。圧倒的な師の姿だ。