
「いい子じゃなければ、また捨てられる」「今度こそ、いい子でいよう。ずっといい子でいよう」「こんなことをしても、わたしを捨てないでくれる? それを確かめたくてわるい子になる」――捨て子として施設で育てられ、ナースになる主人公・山本弥生。どうしようもない病院、そこに新しく来た藤堂師長や、患者にもなる近隣のおじさん・菊地さん等に導かれて成長する話。そういってしまえば実もふたもない。本書ではそれが淡々と、心の深層に迫りつつきわめて内省的に語られる。かつ生まれた時から命に染みついた諦観を、人と接するなかで一枚ずつはがし取っていく過程が描かれる。人が生まれ、生きていくということ、そして生き方というものを考えさせる感動的な小説。人間、人生、生老病死を考えさせ、煩悩・生死の海を乗り越えることを描いている本だ。医療現場の抱える問題にも切り込んでいる。