「公衆衛生学から見た不況対策」という副題がついている。著者は公衆衛生学・政治社会学のオックスフォード大学教授と同大学の疫学者。
テーマとしているのは不況下において、財政緊縮策か財政刺激策のどちらがいいか。その選択はどのような影響を健康に及ぼすか、ということだ。それを膨大な実証研究によって示している。
1930年代の米国のニューディール政策からソ連崩壊と市場経済移行後のロシアとベラルーシ、さらに昨今のリーマンショック後のアイスランドとギリシャ、そしてイギリスのキャメロン政権やオバマ政権の対応等を検証する。
結論は「不況下での緊縮財政は景気にも健康にも有害」ということだ。「不況時には財政赤字と債務増加の悪循環を招くから緊縮財政を」というエコノミストやIMFのいう通りにして、公共住宅予算や医療費を削減、失業対策費などの削減を行った国は、社会は混乱、病気や自殺も増える。逆にそれを保持する努力をして社会政策を拡充した国は、健康も社会も経済も財政も回復する、としている。
不況下での政策決定は「緊縮政策から距離を置き、もっと健康的なボディ・エコノミックを目指すべきだ」という。そしてその柱とすべきは「有害な方法は決してとらない」「人々を職場に戻す」「公衆衛生に投資する」の3つだと指摘する。「どの社会でも、最も大事な資源はその構成員、つまり人間である。したがって健康への投資は、好況時においては賢い選択であり、不況時には緊急かつ不可欠な選択となる」と結んでいる。