第一次世界大戦勃発から100年を経た2014年、ウクライナ問題やイスラム国など「戦争の危機」を感じさせるような出来事が世界で起きている。これはいったい何であるのか。世界史のなかで今、我々はどこに立っているのか。人類のなかで類比できる思考があるとするなら、解決への一歩が見えてくるのではないか。
アンリ・ベルクソンは「問題は正しく提起された時に、それ自体が解決である」と言ったが、本書を読んでそれを想起した。佐藤さんは「資本主義と帝国主義」「ナショナリズム」「キリスト教とイスラム」の3つの角度で歴史を俯瞰し、現在を「新・帝国主義の時代」と位置付け、鮮やかに、しかも重厚に読み解く。「ウクライナ問題」「イスラム国」もこの視座に立った時に新たな地平が浮かび上がる。「沖縄」についても、新たな言及がなされている。
「国内で大きな格差が生まれ、精神が空洞化している、新・帝国主義が進行する現在、ナショナリズムが再び息を吹き返している。合理性だけでは割り切れないナショナリズムは、近現代人の宗教と言うことができる。・・・・・・その暴走を阻止するために、私たちは歴史には複数の見方があることを学ばなければいけない」「社会の危機に対して、復古主義・原理主義的な運動が起こり、地域や領土を越えて拡散していく点では共通している」「近代の枠組みのなかで戦争を止めるには、近代の力を使うしかない。それが私の言う啓蒙主義であり、モダンのリサイクルだ。・・・・・・もう1つは、プレモダンの精神、言い換えれば、『見えない世界』へのセンスを磨くことだ」――。
矛盾撞着の人間の巨大集合の成す濁流の歴史。最後の藤代泰三先生の言葉に『見えない世界』への謙虚な探究を見た。